PROGRAM NOTE 3-3

第3部の5曲目は、同じくヴェルディ(ロマン派 1813年〜1901年 87歳没)のオペラ「オテロ」からとなります。

オペラ「オテロ」は、イタリアの楽譜出版会社リコルディ社が、シェイクスピアの「オセロ」(副題:ヴェニスのムーア人)のオペラ化を検討したことが端緒となりました。

ウィリアム・シェイクスピア(1564年〜1616年)は、イングランドの劇作家・詩人であり、イギリス・ルネサンス演劇の代表者でもあります。4大悲劇「ハムレット」「マクベス」「オセロ」「リア王」をはじめ、「ロミオとジュリエット」「ヴェニスの商人」「真夏の夜の夢」などで知られています。
「オセロ」はツィンツィオが編纂した「百物語」という短編集の第三篇第七話をベースにして作られました。また「オセロゲーム」の名は、この「オセロ」が由来となっています。

1879年3月にリコルディ社が、アッリーゴ・ボーイト(1842年〜1918年)にオペラの台本化を依頼したことから制作がはじまります。そして、同年末には、最初の完成稿をヴェルディに渡したといわれています。
アッリーゴ・ボーイトは、イタリアの詩人、小説家、台本作家、音楽評論家、オペラ作曲家とさまざまなプロフィールを持っています。
ボーイトは、ヴェルディやヴァグナーを尊敬し親交を持つ時期がある一方で、敵対もしくは反発し、批判する立場になる時期もありました。ヴェルディとは、最終的に関係修復され、「オテロ」をはじめ共同作業を行い、イタリアオペラの発展に努めたとされています。

しかし、ヴェルディの腰は重く、その数年後には、ライバルでもあったヴァグナーの死や同世代の人物が既に世を去ったことに落胆し、作曲作業になかなか取り掛かりませんでした。
それでも、1884年に前述「ドン・カルロ」のスカラ座公演に向けた改訂作業を経て、仕事への情熱が再燃し、1886年に7年間をかけて、オペラ「オテロ」はイタリア語による4幕構成として完成しました。
1887年2月に、ヴェルディ16年ぶりの新作オペラ「オテロ」はミラノ・スカラ座で初演され、期待以上の作品と好評を得ることになりました。

主な登場人物は、5人となります。(1) ヴェネツィア共和国の将軍オテロ(ムーア人:北西アフリカの黒人とされる)、(2) ヴェネツィア貴族の娘でありオテロの妻となったデズデモーナ、(3) オテロの旗手イアーゴ、(4) イアーゴの妻でデズデモーナの女中であるエミーリア、(5) オテロの副官カッシオなどが、主な配役となっています。

 

物語は、15世紀末の地中海東部のキプロス島(ヴェネツィア共和国の領土)で展開されます。
ヴェネツィア共和国の将軍オテロは、キプロス島近海に侵入したトルコ艦隊を撃破して、キプロス島の総督に就任します。

ヴェネツィアはイタリア北東部にあり、経済活動で発展した国際的な海洋都市国家として、海岸伝いにギリシャ南部まで領土を広げることもありました。
キプロスは、ギリシャの東南・トルコの南に位置し、東地中海にある島です。
1489年に王位承継者がいなくなり、ヴェネツィア出身の王妃が国王となりますが、最終的にはヴェネツィアに領土を譲渡され統治されます。また、1571年にはオスマン帝国(トルコ)の領土となります。

ヴェネツィア軍は、キプロス島で戦勝を祝っていましたが、オテロの旗手イアーゴは、自分のライバルであるカッシオを副官にまで出世させたオテロを憎んでいます。
そこで、イアーゴは、カッシオに無理やり酒を飲ませて喧嘩騒動を起こさせ、騒ぎを聞いて駆けつけたオテロは、カッシオの醜態を見て副官を罷免します。
この後も、イアーゴは様々な策略を講じて、デズデモーナがカッシオと不貞関係を持っているようにオテロを騙し続け、オテロは妻デズデモーナに対する愛が深いゆえに嫉妬心を抑えきれずに、デズデモーナの殺害を決意するまでに至ります。

オテロはムーア人であり、黒人だという解釈と、褐色のアラブ系民族という解釈に、今でも分かれています。しかし、いずれにしろ、ムーア人はキリスト教社会における白人ではなく、イスラム系の人種です。
オテロは、キリスト教に改宗していましたが、キリスト教社会に同化して、白人と同様に生きていくことはとても困難な環境であったとも思われます。
オテロは尊敬され人望もある将軍であり、貴族の娘であるデズデモーナと結婚しますが、イアーゴの愚かしい策略に見事に騙され、嫉妬と怒りで自らを見失っていきます。
これは、オテロが改宗しても感じざるを得ないコンプレックスや、キリスト教とイスラム教の狭間におけるアイデンティティの揺らぎに要因があったのかも知れません。

 

一方、デズデモーナは、オテロのコンプレックスやイアーゴの憎しみに満ちた陰謀などに対して、全く対極にあり、完全なキリスト教的な存在として描かれています。
不貞の誤解の根源となった「オテロがデズデモーナに贈ったハンカチ」は、イチゴの赤い刺繍がされており、この赤のイメージはキリストが皆を救うために流した血の色であり、犠牲の色であるとも考えられています。

そのデズデモーナは、ここ数日、夫の態度がとても冷たくなったことに不安を感じていましたが、殺されるなどと考えることは一切ありませんでした。

ある晩、エミーリアが寝支度を手伝ってくれている途中で、漠然とした不安から、むかし母に仕えていた娘が口ずさんでいた民謡を、エミーリアに歌って聞かせます。(この場面が「柳の歌」です。)
そして、エミーリアが去り、一人となったデズデモーナは、聖母マリア像に祈りを捧げてベッドに入ります。(この場面が「アヴェ・マリア」です。)

そののち、オテロはデズデモーナの首を絞めて殺してしまいますが、これまでの顛末が全てイアーゴの陰謀であることが分かります。
絶望したオテロは短剣で自らを刺して、デズデモーナに口づけをしようと彼女に向かう途中で息絶えます。

 

※ 演目の詳細説明は、以下のリンクにございます。